今年度は、前年度で実践した自己調整支援プログラムをさらに充実させる形で実践を行った。前年度に引き続き、高機能自閉症スペクトラム障害のある児童・青年のための自己認知を基盤とした社会性困難への支援プログラムを6名の小中学生を対象にした。まず参加者は、感情変化と身体変化の関連を学習し、実際に筋緊張・筋弛緩、脈拍などを自己チェックした。前年度実践したセルフビデオモニタリングを平行して実施し、iPadの動画に映った自分を見ることで自己を客観視するスキル向上を図った。全参加者が初回トライアルで自分の姿をみることに何らかの抵抗を示したが、回数を重ねていくと自分の表情に関心を持つ傾向が見られるようになった。また、セッションで学習したストレスに対する自己対処手段のプランニングとして、5段階表の作成を毎セッションで行った。前年度同様短期間のプログラムの中で顕著な変化は見られなかったが、自己認知スキルに関しては、「自分の状態に気づく」段階には全参加者が達したといえる。ストレスや感情に関する尺度をセッションの前後で行ったが、顕著な違いは見られなかった。参加者が、帰宅後も学校や家庭で同様な支援が受けられるよう、個別の支援プランを合宿中のデータや教材と合わせ、DVD媒体にして参加者の保護者や支援者に渡した。このDVDは、本研究の包括的支援パッケージの具体的成果である。これに基づいて、本研究テーマである社会性スキルに対する包括的支援の一つの形として総括的考察を行った。社会性困難の軽減・解決には本人の自己理解および自己認知は不可欠であり、さまざまなトレーニング手段もこれらなしには効果が期待できない。また個人の特性に合わせた支援のためには複数の支援手段からなる支援メニューづくりが必要であり、包括的支援パッケージはそのために有効であると考えられる。
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