吃音者および非吃音者の約20名ずつを対象に、言語刺激を視覚的に提示しながら、事象関連電位を記録した。用いた言語刺激は、語から予測できる話題が文脈に一致しない動詞を文末に置いた逸脱文であった。収集したデータの中から、吃音者4名、非吃音者5名について分析をおこなったところ、吃音者3名において、非吃音者で観察されるP600が消失傾向にあることがあきらかになった。一方、N400の成分には吃音者と非吃音者の間には明らかな違いは認められなかった。 Friedehci et al(1999、2001)は、パーキンソン病患者や大脳基底核に損傷のある患者を対象に統語的逸脱のある文章を用いてERPを記録した。その結果、患者にP600が検出できなかったことから、P600の生成に関わる言語処理に大脳基底核の損傷が関与していることを指摘している。本研究でも、吃音者4名のうち3名にP600が検出できなかった。このことは、吃音に大脳基底核が関与する可能性を示すものと考えられ、吃音の原因解明に重要な知見を提供できるものと考える。 ERPでは脳活動の場所を特定することは手法上難しいが、時々刻々と変化する脳活動の変化をミリ秒単位で継続的に観察できる。この長所は、通常左半球に処理を依存し、しかも素早いスピードで処理が実行される言語活動の検討に、ERPが利用できることを示している。本研究は、吃音者の言語処理特性の解明にERP記録が有用であることを示す、意味ある研究となると期待できる。
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