吃音は音の繰り返しや引き延ばしが特徴であることから言語表出の問題と考えられるものの、吃音者の言語理解の過程には正常話者との違いがあることが明らかにされている。しかし研究の数は少なく、一定の見解が得られていない。そこで、本研究では、成人吃音者の言語処理過程を事象関連電位記録の手法を用いて観察し、吃音者の言語理解の時間的特性を解明することを目的とした。 対象者は15名の成人吃音者と15名の成人正常話者であった。対象者に150文の日本語文を視覚的に提示し、脳の左右13ヶ所に設置した表面電極により脳電位を記録した。提示した日本語文は4文節で構成された正文75文と誤文75文で、誤文は第4語目に意味の誤った動詞を含む文章であった。得られた脳電位から言語関連脳電位として知られるN400およびP600を分析し、吃音者と非吃音者とを比較した。研究の結果、次のことが明らかになった。①吃音者のN400は非吃音者に比較して統計的に有意に小さかった。②P600は吃音者にも観察されたが、非吃音者に比較して大きく遷延していた。 事象関連電位の中でもN400は言語の意味的処理に関与することが知られている。本研究では、N400に吃音者と非吃音者との間に有意な差があることが明らかになった。吃音者においては文章の意味理解の能力には正常話者との違いはないことから、吃音者が文の意味処理を正常話者よりも遅い時間に行なっている可能性が示唆された。
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