研究課題/領域番号 |
22531064
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
宇野 宏幸 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (20211774)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 特別支援教育 / 発達障害 / 通常の学級 / 授業づくり / 学級経営 |
研究概要 |
発達障害に関する「特性モデル」に沿った授業案を作成し、このような授業づくり方法が対象児およびクラス全体の子どもへ、学習面(理解度、動機づけ)および注意力の面で効果を及ぼすかどうか検討した。本年度は、学習障害(LD)のうち算数障害のある子どもを対象として、「聞く」「推論」領域のつまずきへの配慮や支援のあり方およびその実効性について考慮した研究授業を実施した。 授業案には、文章題の視覚的な理解の工夫とくにイメージ化方略の使用、ロールプレイ、興味を引く具体物提示などを盛り込んだ。小学校2年の対象児は、NU式行動チェックリストで見ると、コミュニケーションや文脈理解に課題が大きく、自閉症スペクトラム児に見られる一般的傾向と一致していた。また、個別的な指導の際には比較的理解も良く、指導内容も定着する傾向にあった。その一方で、在籍する通常学級での授業内容の理解は難しいようで、学力面での課題が顕在化していた。 通常学級での授業においてまず大切なのは、子どもの注意を引く授業の工夫があるかどうかである。教室全面から撮影したビデオを分析したところ、口頭での説明が長くなるにつれて、子どもの注意力が持続しない傾向となる一方、子どもの興味をひく具体物の使用や作業をともなう時間では、注意力が保たれていた。これについて、クラスの傾向と対象児の振る舞いは一致していた。また、本研究では、対象児に文章題の言語的理解力が低いという見立てを得て、視覚的にイメージ方略を使用するよう追加のワーク課題を実施した。その結果、授業でのつまずき箇所の理解が促進されていった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、自閉症スペクトラム障害(ASD)の「心の理論」を考慮した授業づくり(平成22年度)、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の「社会的学習」を考慮した授業づくり(平成23年度)、ならびに学習障害(LD)の「認知特性」を考慮した授業づくり(平成24年度)に関する研究を実施してきた。これらについて、特異的自己効力感尺度や学力の達成度テストを使用、注意(取り組み)をビデオから分析、などをすることによって、対象児およびクラス全体への効果について検討してきた。 その結果、おおむね、対象児の障害特性を考慮するとともに彼らの得意な面を活かした授業の工夫をすることにより、対象児への授業工夫の効果を確認できた。しかし、クラス全体への顕著な効果については確認できていない。しかし、対象児童と類似したニーズを持っている場合や、明らかに教育上のニーズを持っている子どもについては効果的であることは結果から示されている。したがって、とくに、クラスのなかで様々なつまずきを持っている子どもへの底上げ効果は期待できると考えられる。一方、学力的に優秀な子どもへの効果については検討の余地を残している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、4カ年にわたる本研究の最終年度となる。これまでに、3つの代表的な発達障害の〝特性〟をふまえた授業づくり方法の検討を事例的におこなってきた。今後の推進方向の第一は、これら事例の蓄積をおこなっていくことにあるので、研究協力を幅広く募って、事例数の増加に務めていきたい。 第二には、3つの障害の特徴はそれぞれ異なるとは考えられるが、授業の工夫としてはこれらを総合的に盛り込んでいくことが求められる。また、それぞれの障害における弱み加えて、強みをふまえた授業の工夫をシステム化していくことも重要である。例えば、ASDとAD/HDでは、ともに実行機能に弱みを持っているので、学習に見通しを持って取り組むことが難しくなっている。AD/HDでは、注意のコントロールが苦手である一方で、警戒的な注意力は得意なので、フラッシュカードなどこれらの特性を反映した授業の手だてを取り入れることが求められる。 第三には、このような対象児へ焦点をあてた授業の工夫が、クラス全体に波及効果があるか、その条件とは何かを明らかにしていくことが必要である。例えば、協同学習的なアプロチーもあわせて授業の工夫をおこなっていくことが必要かもしれない。 可能であれば、第二、第三の視点を総合的に授業案に盛り込んで、授業を実施し、その効果について検討をおこなっていきたい。
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