研究概要 |
本研究は,インクルーシブな学習環境下で聴覚障害児童に対して学習支援を行うための協働学習モデルの開発と実践・評価を行うものである。本年度は,まず昨年度実施したイタリアの小学校で調査結果を検討し,実践のための諸条件を明らかにした。教室談話の分析からグローバル(フォーマル)な情報の流れとローカル(インフォーマル)な情報の流れがあり,前者は手話通訳等により支援されていたが,後者については,聴覚障害児と聴児が直接にコミュニケーションを行うための手立てが必要であることが明らかになった。本年度はさらに,小学校難聴学級に在籍する聴覚障害児を対象に,学習支援に関する具体的な介入プログラムを開発し,その試行と評価を行った。具体的には,(1)聴覚障害児に対する手話指導,(2)通常学級での聴覚障害児への手話通訳を含のた支援,(3)教員への手話研修,(4)聴児への手話指導であった。(1)では,継続して手話指導を行い,その過程や成果について社会・文化的な視点から検討した。特に,初期の手話学習場面で,日本手話という言語に対してどのように振る舞い,また講師である日本手話話者にどのように関わっていたのかを明らかにした。普段音声中心のコミュニケーション環境にあるが,音声に依存しない手話言語に接し,それを学ぶことで様々な社会・文化的な葛藤やコミュニケーション方略がもたらされた。日本手話を学ぶことは,それに関する振舞いや文化を学ぶことでもあることが示された。(2)では,交流学級での授業の一部に手話通訳者を配置し,その役割について検討した。グローバルな情報の流れでは,手話通訳者が機能していたが,生徒同士の同時発言や私語など,ローカルの対話空間では,手話通訳者が十分に機能しなかった。(3)は夏季休業中の集中講義として,(4)は総合的な学習の時間を利用して行ったが,その効果の持続性に課題があることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していた,協働学習モデルが小学校の難聴学級で導入され,実践的な調査研究が進められつつある。今後,継続的にその効果を検証しつつ,改善や修正を行い,モデルの精緻化を進める予定である。特段,研究計画の変更はない。
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