通常の学校が聴覚障害児の主要な教育の場となりつつある。本研究は,このようなインクルーシブな学習環境下で聴覚障害児童に対して学習支援を行うための協働学習モデルの開発と実践・評価を行うものである。本年度は,昨年度試行的に導入・実施した実践モデルの評価と改善を行い,引き続き,日本の公立小学校で実施可能な実践の構築を図り,この3年間にわたる実践を総合的に評価した。対象校には難聴学級が設置され,当初12名の難聴児(最終年度には15名)が在籍していた。取組は,①難聴児への手話指導,②交流学級での聴児への手話指導,③手話に関する教員研修,④交流学級の授業(理科,社会)での手話通訳の配置,の4つから構成され,実践のプロセスがエスノグラフィックな観点から記述・分析された。難聴児に対しての指導で,あるいは通常の教室の中での実践で,単に新しい言語の導入にとどまらず,新たな関わり方や指導の枠組みなど,まさに文化的実践が重要な契機になることが明らかになった。またそれには,成人聾者の存在と関与が重要であることも示された。聾学校のように聴覚障害教員の確保が難しい状況では,学校外の地域リソースの活用も重要となろう。教室談話の分析からは,グローバル(フォーマル)な情報の流れとローカル(インフォーマル)な情報の流れがあり,前者は教師による視覚的支援,聴覚障害児本人の補聴や読話の努力,手話通訳等による支援により保障されていたが,後者については,聴覚障害児と聴児が直接にコミュニケーションを行うための手立てが必要であることが明らかになった。最後に,欧米等での調査も踏まえ,今後の聴覚障害児に対するバイリンガリズムとインクルージョンの取組に関して検討を行った。
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