本研究は、近年の調査で明らかになってきた発達障がいを併せ有する聴覚障がい児に向けた、算術力育成のためのeラーニング教材を開発するとともに、その学習を支援するシステムの構築を目指すものである。 平成22年度に掲げた研究目的は大きく三つあった。第一は、対象児童の学習時における困難の実態調査である。これに関しては、本年度の研究協力先の児童数名に後述する教材を利用してもらい、いくつかの困難の類型化を行った。第二は、発達障がい児が苦手とする「計数」および聴覚障がい児が苦手とする「数唱」を念頭においた、学習計画の策定ならびにそれに基づくプロトタイプ教材の開発である。本年度は、対象児童の障がいの度合いなどを考慮し、少人数でも差異が検証しやすい乗算(九九)を題材とした教材を開発し、それをLMS上で試験運用した。eラーニングという形態をとっているため、学習計画は緩やかな指針を提示するに留め、できるだけ児童自身が目標を定めて学習に取り組める仕様とし、またそれと連動する形で学習進捗の管理を行い、それを常時児童が確認できる環境整備を行った。これらは、目標設定機能・スタンプ機能という形で実装した。インタフェース上の課題はあったが、こうした仕組みが、対象児童の学習喚起に一定の効果をもたらすことが確認された。そして第三は、AHSを機能させるための学習者特性の因子の選定とそれに基づく学習者モデルの形成である。AHSに関しては仕様上の検討を行い、また学習者特性に関しては上述した困難の類型パターンを一つの因子として考慮することとした。
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