研究概要 |
広汎性発達障害(PDD)児に対しては,さまざまな支援が試みられ,一定の効果が報告されているが,日常生活への般化に関するデータは少なく,十分な科学的検証に基づいた支援は必ずしも多いとはいえない(Rao, et al. 2008)。特に自閉症児において顕著な問題が見出されている語用論的能力(Wetherby & Prutting, 1984)への支援に関しては,日常のコミュニケーションでの効果の検討は欠かせない。 本研究では,PDD児の語用論的能力に対するエビデンスに基づいた支援へとつなげていくことを目的として,かれらの自然発話と非言語行動の分析及び実験により,指示詞と新旧情報の区別の側面から語用論的能力の特徴とその関連要因の解明を行うこと,さらにかかわり手のかかわり方の相違がそれらの特徴へ及ぼす影響を検討する。 当該年度は,母子の自由遊び場面の自然発話データを収集し,順次CHILDESのデータファイルを作成した。また,定型発達の成人及び対象となるPDD児と生活年齢をマッチングさせた定型発達児を対照群として,指示詞の指示対象を特定する際に言語情報と非言語情報をどのように活用するかを調べた。具体的には言語情報と非言語情報(視線・指さし)で異なる情報を与えた場合,どのような反応を示すかを指示詞の理解実験により検討した。その結果,PDD児は話し手の視線や指さしを非言語的手がかりとして使用する能力が弱いことが明らかとなった。理由として,(1)話し手の視線や指さしの方向を特定することに失敗したPDD児がいたこと,(2)視線や指さしから話し手のコミュニケーション意図を理解できないPDD児がいたことである。これらは適切な言語の学習を妨げ,語用論の問題とも関連する可能性がある。PDD児への支援に際し,その場に即した適切な言語の獲得といった表層的行動を扱うだけでは十分でなく,言語獲得の基礎になる社会性の育成に重点的に働きかけることの重要性が示唆された。
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