研究概要 |
本研究では,広汎性発達障害(PDD) 児の語用論的能力に対するエビデンスに基づいた支援へとつなげていくことを目的として,かれらの日常会話における自然発話の分析及び実験による指示詞理解と非言語行動の分析より,語用論的能力の特徴とその関連要因の解明を目指した。 昨年度に引き続き,自然発話データを収集した。収集した発話データをパソコンでCHILDES のCHATフォーマットにより文字化したデータファイルを作成し,順次コーディングを行った。これらのデータから指示詞,提供情報の適切性,相手の話題への反応,新旧情報の区別といった側面から分析を行い,PDD 児の語用論的能力の特徴を検討した。 その結果,他動詞の主語は旧情報を担うことが多く語彙化されにくく,他動詞の目的語と自動詞の主語は新情報を担うことが多く,語彙化される傾向が強いという「好みの項構造」が,日本のPDD児においても,定型発達児とほぼ同様に観察された。このことから,情報を提供する構造や談話の語用論的な特徴に対して,言語面においてはPDD児も定型発達児と同様に感受性を有していると推測された。だが,PDD児への支援を考えるうえでは,言語面のみでなく,非言語情報の処理に関するさらなる検討が今後必要と思われた。 また定型発達の成人及び対象となるPDD 児と生活年齢をマッチングさせた定型発達児を対照群として,指示詞の指示対象を特定する際に言語情報と非言語情報をどのように活用するかの実験を行った。具体的には,言語情報と非言語情報である視線・指さしで異なる情報を与えた場合,これらの対象児・者がそれぞれ,どのような反応を示すかを調べるための指示詞の理解実験を実施した。 これらの実験結果から,言語の指示対象を的確に特定する上で,視線をはじめとする非言語情報による他者意図の読み取りにPDD 児が多くの課題を有していることが明らかとなった。
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