研究概要 |
本研究の目的は、虐待加害者の認知的歪曲に注目し、情報処理的アプローチから虐待加害傾向の個人差を適切に弁別する指標を作成することである。具体的には研究年度3年間で(a)質問紙(顕在的虐待加害指標)の作成、(b)IAT(潜在的虐待加害指標)の作成、(c)質問紙及びIAT両指標の信頼性と妥当性の検討という手順により研究を進める。平成22年度の成果報告は以下のとおりである。(a)については、海外及び日本の既存の虐待リスクアセスメントや育児ノイローゼ尺度など多様な尺度についての文献を収集し、分析・検討してその問題点を明らかにした上で、虐待加害者の子どもへの被害者意識に注目することの意義を確認した。(b)については、従来のIAT研究を概観し、IATの原理と理論的背景を精査したうえで、IATの行動に対する予測妥当性の観点から虐待傾向測度としての可能性を検討した。その上で、IATを虐待傾向個人差測定に用いることの問題点を分析し、その使用の限界について考察した。その中で「調査内容が社会的にセンシティブなものでもIATの効果量はそれほど影響を受けないため、虐待などへの有用性は高い。しかし、IATを重要な個人的評価(例,入社試験など)を下す際の診断的指標として用いるのは時期尚早であるため、IATによる虐待リスク測定はハイリスク保護者の抽出を目的としたスクリーニングではなく、保護者が自らの傾向を内省しようとする啓蒙的・予防的教育プログラム等に用いることが望ましい」という結論を得た。本年度はこれらのIATの可能性を見極める作業を進めると同時に、IAT作成に必要なツールの購入や虐待加害傾向の刺激選択への準備を行った。当初は(a)(b)について予備調査を行う予定であったが進捗状況が遅延したため、それに至らなかった。(c)については、23年度以降の計画である。
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