研究概要 |
本研究の最終目的は,高機能自閉症スペクトラムの青年・成人を対象とした感情コントロール促進プログラムを開発することである。本年は,その基礎研究として,自閉症スペクトラム青年・成人の自己や他者の感情理解の特性について研究を行った。自己の特性については,欧米でASDの診断・評価のための直接観察尺度としてゴールド・スタンダードとされているAutism Diagnostic Observation Schedule-Genetic(以下ADOS-G)を用い,ASD群(19名)とコントロール群(非ASD群19名)を比較することで,その特性を検討した。ADOS-Gの対人コミュニケーションの質問への回答内容について質的分析を行った結果,自分の感情を説明できないところがみられた。また,他者の感情理解については,高次の「心の理論」課題(Motion Picture Mind Reading Task, Wakabayashi 2011)を用いた研究を行った。この研究の結果,誤信念課題のような基本的な「心の理論」課題を通過する高機能の成人においても,他者の皮肉や相手を思った嘘などの複雑な感情理解においては,ASDは特異的に困難があることが示された。 こうした特徴を踏まえて,平成23年度に計画している介入研究のための文献研究を行った。Attwoodの著書や論文(2005)をはじめ,いくつかのASDの子どもや少年を対象とした感情(不安)コントロールを目的とした論文があった。これらの研究は,認知行動療法を採用して個人介入及び小集団介入を行っており,一定の効果を見出していた。本研究でも,小集団による認知行動療法を検討しており,研究デザインや研究参加者の選定をしている段階である。
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