今年度は、Bloch-Krizの混合TateモチーフのHodge実現について研究した。Bloch-Krizは、代数的サイクルを使ってある次数付き微分代数を構成し、それからbar構成によりある可換なHopf代数Hを定義した。彼等による混合Tateモチーフの圏は、H上の余加群の圏と定義される。Hodge実現は、Hopf代数Hに付随する混合TateHodge構造で、H-余加群の構造を持つものの構成に帰着されることがわかる。Bloch-Krizは抽象的な方法でそれを構成し、さらにそれが位相チェイン上の微分形式の積分(周期積分)を使って記述できることを主張している。しかしその証明には明らかな誤りがある。また記述のしかたも全く不十分である。寺杣友秀氏、花村昌樹氏と共同で、周期積分を使った具体的なHodge実現関手の構成に取り組んできた。今までにわかったことは、ある位相チェインの複体Cで、いくつかの性質を持つものが必要(かつ十分)だということである。性質のうち主なものは次の通り:1.Cは代数的サイクルを含む。2.Cは余次元1の"face"への制限写像を持つ。3.Cの元上、0と無限大に極を持つある微分形式ωの積分は収束し、かつfaceへの制限に対しCauchyの積分公式が成り立つ。4.Cは正しいホモロジー群を持つ。様々な試みの結果、Cとしては、semialgabraic setというものから作られるものを考えるのが自然であることが分かった。Semialgebraic setは、実係数の多項式で定義される有限個の等式と不等式で定義される集合で、さらにそのような集合の有限個の和集合を含むようなものである。Cの内、faceと正しく(properに)交わるものを考える。さらに正確には、そのようなsemialgebraic setを基底とするQ-ベクトル空間の、currentの空間への像を考える。これに対し、性質1と2は自動的に満たされる。性質3のうち、積分の収束については成り立つことが最近分かった。現在性質3の後半と性質4の証明を行っている。
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