当研究はアーベル多様体のモジュライ空間のコンパクト化を、log 幾何を用い、log アーベル多様体のモジュライ空間として構成することを目ざすものであった。平成 26 年度は、梶原健氏、加藤和也氏と共同で、log アーベル多様体の射影模型についての研究をさらに深め、射影模型についての論文の執筆を進めた。その過程で、射影模型の構成に必要な、log アーベル多様体上の Gm トーサーの集合が順極限と可換であるという命題が非自明であることがわかったが、詳細な検討の結果、基空間のネーター性を仮定すれば、cubic 同型を用い、Gm 拡大に関する同種の命題に帰着されると考えられることが判明し、現在確認中である。なお基空間のネーター性を仮定していても、最終的な応用には差し支えない。さらに、射影模型についての論文の他に、形式モジュライ空間と GAGF(代数幾何と形式幾何との対応)についての草稿及び、目標であった、log アーベル多様体のモジュライ空間の構成についての草稿を準備した。前者は、平成 25 年度にまとめた固有模型についての論文で未解決であった、完備離散付置環上の log アーベル多様体の完全な記述を含んでいる。後者では、モジュライ空間の表現可能性を示すために、今までの模型についての結果を組み合わせ、古典的な Artin criterion の各条件を確かめる方針を採用した。なお、log アーベル多様体の理論および当研究全般に関する講演を、京都大学数理解析研究所で開催された研究集会「代数的整数論とその周辺 2014」で行ない、多くの質問や今後の展望についてのコメントなどの反響があった。
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