研究概要 |
n 次ユニタリ群と Heisenberg 群の半直積群であるユニタリ・ヤコビ群上の保型形式(ユニタリ・ヤコビ形式)を用いて,ユニタリ群上の正則保型形式の精密な部分フーリエ展開を求めること,保型L関数の新たな構成を与えることを目的としている. 前年度まで考察した平準化元(冪等元)のみの利用では,ユニタリ・ヤコビ形式の切り分けには不十分であると判明した.そのため原点に立ち戻り,ユニタリ・ヤコビ Hecke 環の構造決定に取り組むことにした(これは,当初その困難さゆえに回避していた方向である).通常のヤコビ Hecke 環についてもこの問題は易しくない.index がユニモジュラーな場合の新谷卓郎氏の結果(古典群の場合と同様な佐武同型の成立)以外は,知られていない. 通常のヤコビ形式(Heisenberg 群とシンプレクティック群の半直積上の保型形式)で,index が m 次の極大整格子に対応する場合を考察した.このときでも,Hecke 環は非可換となり得るが,その非可換性は,殆ど Heisenberg 群の部分から生じることを見るとともに,最も易しい SL(2) ヤコビの場合には,その完全な構造を決定することができた.この場合,ヤコビ群は符号 (2, m+2) の直交群に埋め込まれ,ヤコビ形式からの直交群上の正則保型形式へのリフト(織田リフト)が良く知られている.関連するテーマとして,青木宏樹氏の方法を用いて,レベル 2, 3 の 2 次パラモジュラー保型形式(これは符号 (2,3) のある直交群上の保型形式に一致)の環構造を決定した.結果は既知であるが,保型形式の構成に Klingen Eisenstein 級数を用いることにより,自然な生成系を与えることができた.
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