研究課題/領域番号 |
22540033
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
都築 正男 上智大学, 理工学部, 准教授 (80296946)
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研究分担者 |
角皆 宏 上智大学, 理工学部, 教授 (20267412)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | L関数 / 相対跡公式 / 保型形式の周期積分 |
研究概要 |
25年度の研究代表者の研究成果は次のようにまとめられる。 (I)一般総実代数体上の正則ヒルベルト保型形式の予め指定した2次拡大への基底変換L関数の中心微分値を考える。所与の重さ(無限素点での離散系列のパラメーター)がすべて6以上であり、基底変換L関数の関数等式の符号が負であるような保型表現のうちコンダクターを共有するようなものの平均(harmonic moment)に対してコンダクターに関する誤差項付き漸近公式を導いた。このような公式はGL(2)の保型形式の対角分裂トーラスに沿った周期積分に対応する相対跡公式の明示化とその拡張によって得られた成果で、なかんずく跡公式の所謂幾何サイドに現れる局所項たちをスペクトルパラメーター空間上のテスト関数の汎函数として完全に明示的に計算したことの重要性を強調しておきたい。漸近公式の誤差項のコントロールによって、非消滅中心L値(微分値)を有する正則保型表現の定義体の絶対次数の下からの評価について新しい結果を得ることが出来た。(以上は杉山真吾氏との共同研究である。)(II) 総実代数体上で各実素点での符号条件を調整して得られるユニタリー群のコンパクト算術商の塔(志村多様体)を考える。非等方ベクトルの固定部分群から生じる算術サイクルのdeRhamコホモロジー類をヘッケ作用素で固有分解したときに生じる各既約成分のL2ノルムを重さとして採用すると、対応する佐竹パラメーターがパラメーター空間上のあるPlancherel測度について一様分布することを証明した。この成果は、やはり相対跡公式の局所項の明示的決定から得られたもので、(I)の研究手法の有効性が確かめられたことの意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度計画で述べた直交群の場合に関して、浅井L関数の中心特殊値の平均公式(1次モーメント公式)は得られたもののそれ以上の応用に関しては芳しい進展がなかった。少し視点を変えて24年度から継続して行っていた正則ヒルベルト形式の基底変換Lの研究を見直し、微分値の場合にも広げることが出来たのは思いがけない成果であった。 このような経緯に鑑みて、計画は修正されつつもおおむね順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たって研究を高次元や高階数の代数群の実例にまで広げたい。申請当初の計画では、2次斜交群のケーススタディを念頭に置いていたが、隣接した行列サイズをもつ実階数1のユニタリー群2つの直積のスカラー値正則カプ形式に対するGross-Prasad周期をスペクトルサイドに含むような相対的跡公式は解析的に扱いやすく研究の端緒としてはより現実的と思われる。このケースで相対跡公式を明示的に計算する方向で研究を引き続き杉山氏と協力して推進していきたい。特に行列サイズが3以下のユニタリー群に対しては、nlocal new formsの理論など詳細な研究を可能にするために必要な結果は十分に蓄積されている。正則スカラー値のみでは、アイゼンシュタイン級数の寄与が消えてしまう。これは簡明で良い反面、相対跡公式の全貌を知る上では不十分といえる。そこで、サイズの大きなユニタリー群の保型形式がマース形式である場合も同時に考察の対象とする。アイゼンシュタイン級数など急減少とは限らない保型形式の対に対するGross-Prasad周期の発散積分の回避のために、新谷卓郎が導入した平滑化アイゼンシュタイン級数を用いた方法を試みに採用する。
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