研究概要 |
本年度の研究業績は二つある.一つは,論文 KZ equation on the moduli space M_{0,5} and the harmonic product of multiple polylogarithms, London Math. Soc. (3) 105 (2012) 983-1020 が出版されたことである.この論文においては,2変数KZ方程式を解析するための代数的枠組み(被約バー代数)と幾何学的枠組み(モジュライ空間M_{0,5}のファイバー空間としての構造)を構築し,その上で,基本解の分解定理を確立した.さらに,分解定理が「一般化され調和積関係式」と同等であり,それが1変数多重対数関数に関する 調和積関係式をすべて含むことが証明されている.この結果は,多重ゼータ値の調和積の問題が,KZ方程式の視点から捉えられたことを意味する. 第二の業績は,論文 The Inversion Formula of Polylogarithms and the Riemann-Hilbert Problem, in Symmetries, Integrable Systems and Representations, ed. by K.Iohara et al., Springer Proceedings in Mathematics and Statistics 40 (2013) 491-496 が出版されたことである.この論文においては,多重対数関数(polylogarithm)のみたす「反転公式}が,ある漸近条件と正規化条件のもとで,多重対数関数を一意的に特徴づけることが示されている.その際に用いる手法が「代数的リーマン・ヒルベルト問題」である. 以上の業績により,本研究の目的は,おおよそ達成されたと考えている.
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