研究実施計画で述べたように、この期間の具体的目標は次の様であった。 (i) p進Siegel modular形式、p進Hilbert modular形式の具体的構成 (ii) p進Eisenstein級数の性質の解明 (iii) 他の多変数modular形式の場合の同様の理論の構成 これらの目標について、成果を述べる。(i)については、「雑誌論文」の項の一番目に記載された論文において、Siegel modular形式のp進理論について発展があった。これは市川氏が代数幾何学の理論を用いて証明したp進modular形式のweightの定義について、それがうまく定義できることを、一変数のmodular形式の理論に帰着することにより、簡明な証明を与えた。(ii)と(iii)の研究テーマについては同じく「雑誌論文」の項の二番目と三番目に記載された論文において、その研究の端緒がつけられたといってよい。これはmodular形式のp進理論の創始者であるSerreの得た結果、例えばweightが2のmodular形式とweightがp+1のmodular形式の間のpを法とした合同の関係を多変数のmodular形式の典型的な例であるSiegel modular形式の場合に、どの程度まで拡張し得るかを問うたものであり、具体的に言うと「吉田リフト」と呼ばれるmodular形式の範疇までは理論が拡張可能であることを示した。 また三番目の論文においては、今まで知られていた合同式の関係が多変数の場合にも成立することが示された。例えば、Mazurが一変数の場合発見した所謂「Mazur合同式」と呼ばれるものを、2変数のSiegel modular形式についても成立することが証明されている。研究の中で、より次数の高いSiegel modular形式の場合への拡張が、研究課題として残った。これが次の研究目標の一つである。
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