当該年度の研究目的は、「モジュラー形式のp進理論の多変数化」であった。この多変数化は、モジュラー形式が「スカラー値」の場合は、報告者とドイツのBoecherer氏の共同研究により、成果が得られてきた。すなわち、Serreが一変数の場合に展開した楕円モジュラー形式のp進理論のいくつかの重要な事実を、多変数モジュラー形式の典型的な例であるジーゲルモジュラー形式の場合に拡張した。その結果のなかでは、フーリエ係数のp進的な合同とモジュラー形式のウエイトの合同関係等、一変数の事実がそのまま拡張される結果とウエイトp-1でpを法として1となるようなモジュラー形式の存在の証明のように、多変数では「そのままでは成立しない」ような結果等、多変数特有の事実が浮かび上がり、興味深い研究となった。この成果を、「ベクトル値モジュラー形式の場合に拡張しようという試みが当該年度の研究の主たる目的であった。近年、伊吹山氏を中心として、ベクトル値ジーゲルモジュラー形式のなす加群の構造が、明らかになりつつあり、これにたいしてp進理論を打ち立てることが目標であった。報告者は共同研究者であるBoecherer氏とこの研究をおこない、成果を得ることができた。それは、これまでテータ作用素と呼ばれてきた作用素をベクトル値の場合に拡張し、それが「ベクトル値」の意味でのp進モジュラー形式となっていることを示したことである。この成果は、オマーンで開かれた日独モジュラー形式国際会議でBoecherer氏により、発表され、Springer社から発行される会議報告論文集に掲載が決定されている。
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