研究概要 |
正標数の代数多様体Xと非負整数eに対し,Xのe次F爆発とよばれる自然な双有理変換FB_e(X)が安田健彦氏により定義されている. 正規2次元特異点のF爆発に関する前年度までの研究で, 2次元F正則特異点のF爆発が最小特異点解消であること, 及び, 単純楕円型特異点を含む2次元非F正則特異点のF爆発の様々な振舞いが明らかになってきている. 本年度は, このうちとくに単純楕円型特異点について未解決であった部分を考察し, 正標数の単純楕円型特異点(X,x)のF爆発の構造を完全に決定した. その結果としてとくに,Eを(X,x)の最小特異点解消における例外楕円曲線とするとき, 次の三条件の同値性を証明した. (1) 交点数-(E.E)が標数pのベキではない. (2) 任意の正整数eに対して, (X,x)のe次F爆発FB_e(X)は最小特異点解消と一致する. (3) XのF爆発列{FB_e(X):e=0,1,2,...}が十分大きいeにおいて安定化する. 交点数-(E.E)が標数pのベキである場合は, XがF純か否かによってF爆発の構造は異なり, その構造も最小特異点解消の0次元閉部分スキームを中心とする爆発として記述される. 一般に, 正標数の代数多様体Xのe次F爆発は, 構造層のe次フロベニウス直像の普遍的平坦化であるから, このフロベニウス直像の構造は, F爆発の観点からも興味深い. そこで, 問題を大域的な設定に置き換えて, Xが非特異射影多様体である場合のフロベニウス直像の計算法について考察した. Xがトーリック多様体のときフロベニウス直像は直線束の直和になることは知られているから, トーリックでない最も単純な設定として, Xが標数2の射影平面を4点で爆発して得られる有理曲面であるときに, e次フロベニウス直像の計算を試み, その構造を決定した.
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