標数零に持ち上げ不可能なCalabi-Yau 3-foldの例に注目し、廣門正行が1999年に与えた例について、小平消滅定理が成り立つかどうか考察してみた。その結果、標数分だけ冪したものが大域切断を持つような豊富因子については、必ず1次元の小平消滅定理が成り立つことが分かった。同じ結果はS. Schoeerの例についても言えることがわかった。この成果の一部については、プレプリントサーバーで公表し、学術雑誌に投稿中である。この方向でさらに研究を進めるには、豊富な因子を詳細に調べる必要があるが、いまのところ有効なアイディアは見つかっていない。 持ち上げ不可能なCalabi-Yau 3-foldの研究を切欠に、この多様体だけに限って小平消滅の反例、ホッジ・ドラムスペクトル列の縮退、無限小変形でどのレベルまで持ち上げ可能かといった所謂「正標数の病理現象」の背景を調べる方向に向かって行った。 平成24年度の後半は、特にホッジ・ドラムスペクトル列の問題を調べるのに必要となる、クリスタリンコホモロジーやドラム・ヴィット複体、傾斜スペクトル列とそのトーション理論を調べ始め、T. Ekedahlが廣門の最初の例とSchoeerの例について行ったコホモロジーの計算方法を理解することを目標に努力したが、残念ながら平成24年度中に終えることはできなかった。
|