本年度は、まず2つのケーラー類をもつトーリック多様体の場合に、ミラー対称性の計算に用いられるミラー写像等のB模型のデータを、多項式写像のモジュライ空間の交点数として表す手法を開発し、その成果をプレプリントとして発表した。また、この成果を日本数学会秋季総合分科会において発表した。 この結果は、ミラー対称性におけるグロモフ-ウィッテン不変量の計算の過程に明確な幾何学的意味を与え、わかりやすいミラー定理の証明につながる重要な結果であると考えられる。特に、2つのケーラー類を持つトーリックに対する拡張に成功したことは、申請者の着想が、複素射影空間だけでなく、より一般的な場合のミラー対称性にも適用できる事を実証したという点で非常に意義深いものである。 また、複素射影空間の場合に、B模型のデータを多項式写像のモジュライ空間の交点数として表す手法の応用として、ミラー定理の組み合わせ論的証明があげられるが、この方向においても、本年度にある程度の進展があり、来年度における完成を目指す目処がつきつつある。この方向の完成を来年度の主目標としたい。なお、この方向の先駆的結果を発表した申請者の論文は、本年度にJournal of Geometry and Physicsに掲載されることが決定した。 さらに、本研究課題の科研費使用の目的の一つとして、研究会の開催による研究者間の交流を挙げていたが、平成23年3月9日と10日の2日間にわたって、北海道大学で「Mini Workshop on Mirror Symmetry 2011」を開催し、国内のミラー対称性の研究者の成果発表と意見交換を行った。
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