研究概要 |
本研究の主な目的は,フレッシェ空間(完備距離付け可能局所凸線形位相空間)の単調増加列の帰納的極限である局所凸線形位相空間として定義されるLF空間をモデルとするLF多様体の位相構造を研究することである.可分ヒルベルト空間l_2の有限座標以外は0となる点全体からなる部分線形位相空間l_2^fは,典型的な可分LF空間であるユークリッド空間の帰納極限R∞の異なる位相付けと見なせる.両者は,可算無限充満複体の弱位相を持つ多面体と距離位相を持つ多面体と同じ同相写像で同相となっている.同様に,l_2^f(τ)を稠密度がτ>N_0である非可分ヒルベルト空間l_2(τ)の有限座標以外は0となる点全体からなる部分線形位相空間とすると,頂点の濃度がτの無限充満複体の距離位相を持つ多面体と同相であることが分かったので,どんな線形位相空間が(ホワイトヘッド)弱位相を持つ多面体と同相なのか興味深い問題である.有限次元部分線形空間に関する弱位相をl_2^f(τ)に入れても線形位相空間にはならないが,Rの箱積の部分空間としての位相(箱位相)をl_2^f(τ)に入れるならば局所凸線形位相空間になる.単体複体の多面体における箱位相に相当する位相は弱位相と距離位相の中間にあたり,多面体はこの位相によって距離空間に対するANEになることが分かったが,単体複体の位相としては非常に悪い性質を持つ位相であることも判明した.実際,重心細分はこの位相を保存しないし,この位相に関して連続とならない単体写像も存在する.この結果は,論文にまとめられ学術雑誌に投稿され審査中である.その他,これまでの出版予定であった論文が年度中に出版された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
LF多様体に対しても,無限次元多様体に関する基本定理が成立することが予想されるが,それらの証明には新たな技法や手法が必要であり,試行錯誤が続いている.1年目の進展に比べれば,2年目の進展は鈍ったものとなった.若手研究者の育成にも力を入れており,これまでの教材であったLecture Notesの改訂と出版を計画しており,そのために多くの時間を取られたことも理由の1つである.
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今後の研究の推進方策 |
上に述べたようにLecture Notesの改訂と出版の計画のために,2年目の進展はやや鈍りはしたが,Banakhたちによる研究においてヒントが見出されており,さらに関連する単体複体に関する研究も進んでいるので,引き続き同じ計画で研究を行っていく.予算の使い方に関してはLecture Notesの出版計画のために,外国人研究者招聘の費用を英文校正の費用に割り振り,出版を優先する.
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