本研究の目標は、トポロジーの主な研究対象である可分距離空間とその上の連続写像の力学的・幾何学的性質をトポロジー・位相力学系理論・エルゴート理論を駆使して総合的に研究し、カオス力学系理論に現れる複雑な不変集合の幾何学的構造を明らかにすることである。更には、位相力学系、幾何学的トポロジーおよび位相空間論の方法論を融合して、可分距離空間の原理的な構造を解明することである。一般に連続写像の力学系は複雑なトポロジーを導くことが知られている。ストレンジアトラクターをはじめとする不変集合は大変複雑な構造をしている場合が多く、そうした複雑なコンパクト距離空間の幾何学的構造は大変興味深い研究対象である。今年度は、空間の幾何学的構造の研究、および連続写像のカオス力学系理論からの研究を行い大きな研究成果を得た。これまでの研究で、(連続体的)拡大同相写像を許容する空間にはカオス連続体が存在し、そのカオス連続体はindecomposable構造に極めて近い構造を持っていることを明らかにし、Mouron氏との共同研究でhereditarily indecomposable continua上には拡大同相写像は存在しないことを証明していた。平成22年度の研究では、以下の結果を得た:(1)k-cyclic連続体上ではindecomposableなカオス連続体を含むこと、(2)ランダムなorbitsの列を可算個与えると、それを実現する力学系が測度保存力学系全体の中で稠密に存在していること、(3)positively expanding mapと空間の距離との関係に関して最も良い評価を与える距離の構成に成功、(4)空間の位相次元とbox-counting dimensionとの関係を、最終的な段階まで明らかにする距離の構成に成功した。つまり、空間の距離の構造とbox-dimensionとの関係を完全に決定する定理の証明に成功した。これらの成果は、幾つかの研究集会で発表され、Topology Appl.およびJ.Math.Soc.Japanなどの国際的な数学雑誌に掲載または掲載予定である。
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