研究概要 |
体積予想とは,N次元結び目の色付きJones多項式のパラメータに,1のN乗根を代入し,Nが大きいときの漸近挙動を調べると,その結び目の補空間の体積が得られるであろうというものである.この予想を証明する試みとともに,様々な拡張が試みられてきた. 本年度は,拡張の一つとして漸近展開の主要項にChern-Simons不変量(リー群SL(2,C)に付随したものであり,体積の複素化とみなせる)とReidemeister torsionが現れるのではないかという予想を提唱した.これは,8の字結び目と呼ばれる簡単な双曲結び目についての精密な計算により証明された定理をもとにしたものである.この結果は,色付きJones多項式のパラメータに1のN乗根を代入したものだけではなく,exp((2πi+u)/N)を代入したときにも成立するものであり(uは絶対値が小さな実数),AndersenとHansenにより知られていた式を拡張したものになっている.さらに,ここに現れた変数uが,結び目補空間の基本群から,リー群SL(2,C)への既約表現に対応しており,漸近展開に現れるChern-Simons不変量とReidemeister torsionは,この既約表現に対して定義されるものである. この結果は,体積予想に関連して物理学者のGukovやDimofteたちが提唱してきたものと対応しており,数学的に厳密な考察は重要である.
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