研究課題/領域番号 |
22540075
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
内藤 久資 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (40211411)
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研究期間 (年度) |
2010-10-20 – 2014-03-31
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キーワード | 幾何学的変分問題 / 計算材料科学 |
研究概要 |
幾何学的変分問題の例の一つである2調和写像で、調和写像とは異なるものを構成することに成功した。この研究は、東北大学の浦川肇氏との共同研究であり、既に調和写像の存在がわかっている多様体の間で、定義域及び値域の多様体に1次元ユークリッド空間を直積し、そのユークリッド空間の計量を共形的に変形することにより、調和写像とは異なる2調和写像の存在と、その手法による2調和写像への変形の非存在を証明した。この研究では、実数上のある常微分方程式の解の大域的存在が、2調和写像の存在と同値になるが、この常微分方程式の解を数値的に構成し、その解を視覚化することによって、解の存在定理および非存在定理の証明の方針を得ることができた。 また、ユークリッド空間内の有界領域上に、2種類の値をもつ関数をその熱伝導率とするラプラス方程式を考察し、与えられた体積制限条件の下で、その第一固有値の最大・最小を与える熱伝導率の分布を考察した。この問題は、2種類の物質によって、より効率的な冷却を行う物質の構成という動機の下、その効率の一つの例として第一固有値を考え、物質配置の形状最適化を考察したことに他ならない。この問題は、東北大学の小谷元子氏および松江要氏との共同研究であり、熱伝導率関数が連続ではないため、解析的に考察することは必ずしも容易ではない。そのため、有限要素法による数値解析を中心に研究を行い、数値解析結果の視覚化を通じて、最適配置の特徴付けの数学的予想を得ることができた。その予想は、視覚化を行わない限り得ることが困難な予想であり、現時点で、その予想に対する厳密な証明を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変分問題として定式化されるいくつかの問題について、その数値計算に基づく視覚化を通じて、数学として意味のある結果を得ることができた。第一に、2調和写像の存在については、常微分方程式の数値解析及びその視覚化をなしには、大域的な解が存在するか否かの予想さえも考えることが困難なものであった。事実、この問題に関しては、Baird-Kammisokko による 2000 年頃の予想に対する完全な解答を与えたものであり、Baird-Kammisokko たちも数値計算による予想を行なっていたが、計算結果の解釈(視覚化)が不十分であったため、存在定理の基本的な予想を得ることができなかったと考えられる。本研究では、その部分を標準的ではあるが、有意義な視覚化を行うことによって、完全な解答を得た意義は大きいと考えられる。 また、物質の最適配置問題については、基本的には数値計算が主となると考えられる研究内容であるが、単に計算を行うだけでなく、その計算結果の視覚化から、リゴラスな数学的な予想を立てることができた。その際に利用した数値計算アルゴリズムを見直すことにより、最適配置(最適形状)のりゴラスな予想を得て、ある程度証明が進んでいることは評価できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、2種類の熱伝導物質の最適配置問題に関して、現時点で得た数値計算結果だけでなく、領域形状や他の境界条件での数値計算を行い、これまでに考察した厳密解に関する予想の正当性をさらに検証する。また、厳密解に関する予想を証明することにより、非常に望ましい条件の下では、数値計算を行わずにも配置形状の最適解を得ることができると考えている。一般的な形状最適化問題に関して、このタイプの結果はこれまでには知られていない。 第二に、近年材料科学で研究が始まった、マッカイタイプの炭素結晶と、離散極小曲面との関連を研究する。この研究では、マッカイタイプ結晶の標準実現の視覚化を通じて、それらがなぜ極小曲面と関連しているかを知ることができると考えている。そのため、炭素結晶として実現可能なマッカイタイプ結晶が極小曲面のグラフ近似を与えることを証明し、その近似効率と、炭素結晶として実現可能な標準実現との関連を研究する。これによって、大規模な第一原理計算なしに、マッカイタイプ結晶の実現可能性を知ることができると期待できる。
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