研究概要 |
今年度は、普遍被覆空間上での非線形偏微分方程式の研究を行うために、2つの基本的な解析的手法の構成を発展させた。一つ目は、双曲系非線形偏微分方程式を離散群のスケール極限として与え、特に力学系のスケール変換の立場から研究を行った。オートマトンを幾何学的に扱う手法としてもっとも活発に研究されているものの一つが,無限樹木に作用する離散群である.そこに現れる代表的なオートマトンのクラスとしてMealy automatonがあり,それから無限樹木へ作用するオートマタ群が構成される.オートマタ群は非常に特徴的な群をいくつも構成することに成功しているが,そのうち特に無限トーション群について,対応する双曲系偏微分方程式の解がある種の条件のもとで無限個の周期を持つ擬再帰的な振る舞いをすることがわかった.またMealy automatonにクラスを制限すると,誘導される偏微分方程式系は,Griffithらによる微分形式の理論で典型的に現れる双曲型偏微分方程式系であることがわかった.トロピカル幾何学にあらわれる同値関係と,微分形式の理論に現れるそれとは全く性質が違い,前者は大域解析的なもので後者は局所的であるが,その間の関係を現在調べている.二つ目は、ある種の無限次元空間への概正則曲線のモジュライ空間のコンパクト性に関わる結果を得た。これは線形化方程式をヒルベルト空間に値を取るものに拡張することで、関数解析的な取り扱いを行うことで得られる。普遍被覆空間上のベクトル束はpush forwardを施すことにより、もとのコンパクト多様体上のファイバーが無限次元であるようなベクトル束が与えられるが、それにより前者の上の非線形偏微分方程式を後者の上のものと見なくことができ、逆に後者での解析の結果を元の問題である普遍被覆空間上の大域解析へ応用することが目標となる。
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