近年,どのような3次元多様体の基本群が左不変順序を許容するかという問題に注目が集まっている.群論において,左不変順序の研究の歴史は長いが,目下,トポロジーとの関連が徐々に明らかになりつつある.中でも,ヘガード・フロアーホモロジー理論において導入されたL空間とよばれる重要な3次元多様体の族が,基本群に左不変順序を許容しないという性質で特徴づけられるのではないかという,いわゆるL空間予想が提案されたことで,世界中の多くの研究者がこの話題に取り組み始めた.以前から,L空間の位相的特徴づけは懸案問題であり,L空間予想は位相的解釈を与えるものではないが,基本群の順序構造とフロアーホモロジーとの関連は見出されておらず,予想が正しければ,未知の領域への扉が開くことにもなり,今後の発展が大いに期待される. 3次元多様体は結び目のデーン手術によって生成でき,L空間でない3次元多様体を生成することは容易である.L空間予想を支持するならば,そのような多様体の基本群が左不変順序を許容することが期待される.本年度は,ツイスト結び目,さらには種数1の2橋結び目に対して,手術の係数がある区間に属する場合,生じる多様体の基本群が左不変順序を許容することを証明した.これは,ボイヤーたちによって行われた8の字結び目の場合の議論を一般化したものであり,L空間予想の信憑性を高める新たな証拠である.この成果は3つの論文にまとめ,すでに国際学術雑誌に投稿し,現在,審査中である.
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