研究概要 |
本研究課題であったクライン群Γの位相的および幾何的分類の研究は,M=H^3/Γの境界が非圧縮というどちらかというと扱いが容易な場合は,ほぼ完成している.論文としてまとめ投稿中なのは,MがΣ×Rに同相な場合のみであるが,それ以外の場合への一般化に関しての研究は現在進行中である.ここで,Σは有限型のΣ曲面を意味する.Γ_nがπ_1(Σ)と同型となるようなクライン群の列{Γ_n}を考える.また,Gを{Γ_n}の部分列の幾何的極限とする.このとき,N=H^3/Gの位相型としてどのようなものが現れるかを研究した.本研究課題の研究者の以前の研究では,{Γ_n}が代数的に収束する場合のみを考えていた.しかし,平成23年度の研究では,この幾何的収束の仮定なしで幾何的極限となるための位相的必要条件を与えた.一般に,Nは無限個の位相的テームなエンドと,無限個のワイルドなエンドを同時にもつことが証明された.さらに,NはΣ×Rの中に位相的に埋め込まれることも証明した.逆に,この位相的必要条件をみたすような双曲多様体Nは,あるクライン群列{Γ_n}の幾何的極限であることも証明できた.この結果と関連して,曲線複体の強張測地線に同伴する双曲多様体内の測地線の長さは上から有界であることが,Y. MinskyやB. Bowditchによって証明されているが,本研究者は,幾何的極限を利用したより簡明な証明を与えた.このような証明は,クライン群の幾何的極限を統一的に研究する上で,意義があると考えている. さらに,桐木紳氏(京都教育大学)との共同研究により,エノン写像の列で,各要素が3次ホモクリニック接触をもつものが存在することを示した.この結果と以前の共同研究を組み合わせることにより,エノン写像で3次多項式型ストレンジ・アトラクタをもつものの存在がはじめて明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クライン群の幾何的極限の位相的,幾何的分類が特殊場合から,一般の場合への徐々に拡張されつつある.さらに,この分類定理の応用も,共同研究者の大鹿健一氏(大阪大学)によってなされつつあるので.
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今後の研究の推進方策 |
大鹿健一氏を情報の交換をしながら,クライン群の幾何的極限の分類を共同研究で進めていく.研究上,特段の問題は起きていないので,今の研究方針を堅持する.同時に,幾何的3次元閉多様体の微分同相群と等長群に関するSmaleの予想の解決を目指す.これと並行して,桐木氏と共同でエノン写像の力学的現象の研究を進めていく.
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