本研究は古典的微分幾何の諸分野を現代的な手法を用いて研究することを目的としており、平成22年度は可積分系理論と平面曲線・空間曲面の運動の関係、tt^*構造とアフィン微分幾何の関係の二項目を重点的に研究して、以下の成果を得た。 1.可積分系方程式の無限系列であるKdV階層・変形KdV階層は、ともに適当な関数空間上における二種のポアソン括弧式を用いて、双ハミルトン系として記述される。本研究では、これらの階層が曲線の運動に付随して現れることを用いて、それぞれ曲線の空間上に定義された二種の前シンプレクティック構造による双ハミルトン系として幾何的に記述されること、KdV階層と変形KdV階層の間のミウラ変換が幾何的には対応する曲線の空間の間の双シンプレクティック写像となっていることなどを示した。また、同様の手法を用いて、バーガース階層について、無限個の前シンプレクティック構造による無限多重ハミルトン系としての幾何的な記述とその基本的な性質を導いた。可積分系の構造を対応する幾何的対象の運動を通じて幾何的に研究することは、非常に有効な方法の一つと考えられ、今後はこの手法を可積分系方程式が付随する曲面の運動などへ広げていくことを計画している。 2.ヘッセ多様体とそのサブクラスである特殊ケーラー多様体はそれぞれ、アフィン超曲面論においてグラフはめ込みとそのサブクラスである非固有アフィン超球面に対応する。本研究では接束に計量的tt^*構造と呼ばれる幾何構造が入る多様体(tt^*多様体)を考察し、特別な場合に対応するアフィンはめ込みの具体例を構成した。これにより、tt^*多様体が上の二つのクラスの中間に位置することを示せただけでなく、今後tt^*多様体に対応するアフィンはめ込みの表現公式を与える上での手がかりが得られた。
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