研究課題/領域番号 |
22540107
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
黒瀬 俊 関西学院大学, 理工学部, 教授 (30215107)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 古典的微分幾何 / アフィン微分幾何 / ヘッセ多様体 / 接束の幾何 / 変形KdV方程式 / 幾何的ミウラ変換 |
研究概要 |
可積分系理論の手法と成果などを取り入れた現代的な観点から、古典的微分幾何とその応用の研究を進めた。その結果、平成24年度はアフィン幾何・ヘッセ幾何、可積分系方程式が付随する曲線の運動などの分野において、以下のような成果を得た。 1. 平坦なアフィン接続が与えられた多様体の接束には、自然に複素構造が導入される。さらに、多様体上にリーマン計量も定義されてヘッセ多様体になっているときは、接束はケーラー多様体になることが知られている。接束は開多様体なので、特にその関数論的な性質に注目して研究を進めた結果、底多様体が凸である場合に、接束が小林の意味で双曲的であるための十分条件を与えた。また、接束上の小林擬距離と深く関係すると考えられる擬距離を底多様体上に定義した。ここで与えた底多様体上の擬距離は新しいものであり、本年度中はその性質を充分には解明しきれなかったが、さらに研究を積み重ねることにより、接束の双曲性に関してこの擬距離の観点から新たな知見が得られるものと考えている。 2. 前年度に引き続き、アフィン平面の凸領域において、境界のアフィン法線で定まる反射法則を用いた撞球の性質を調べ、特にそれが双曲平面の領域におけるユークリッド的な撞球と同値であるための条件を調べた。その結果、そのようなアフィン平面の凸領域は、二次曲線で囲まれた領域にほぼ限られることが分かった。 3. 3次元ユークリッド空間の捩率一定の曲線の運動には変形KdV方程式(階層)が付随することが知られている。この運動は球面上の曲線の弧長径数を保つ運動と対応しているが、さらにそこから(複素)平面の等積中心アフィン曲線の運動への対応(幾何的ミウラ変換の一般化)があることが分かった。この対応を用いて、捩率一定の空間曲線の運動のハミルトン系による記述を与えることが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平坦なアフィン接続を持つ多様体やヘッセ多様体の幾何は、古典的微分幾何の一つであるアフィン微分幾何とその応用において中心となる対象であり、その接束の複素構造やケーラー構造の性質を調べることは基本的な課題の一つである。今回の接束の関数論的な性質に関する研究、特に底多様体上の擬距離の構成とその性質に関する結果は、この方面の研究の今後の基礎となるものであり、これからよりいっそうの展開が期待できる進展を与えることができたと考えている。 また、本研究の主目的の一つである、古典的微分幾何と可積分系理論の関係深化に関しても、ミウラ変換の幾何学化を一般化する等、さらなる研究を進める上で大きな手がかりとなる成果を上げており、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究がおおむね順調に進行していることから、連携研究者の役割分担は特に変更せず、1~2ヶ月に一度程度、研究打ち合わせと成果報告・検討を行いながら研究を推進する。また、研究推進に必要なコンピュータを用いた数式計算および結果の可視化の効率の向上を図って、ソフトウェアを更新する予定である。なお、平成24年度の研究成果に鑑み、研究代表者は特に、 1. アフィン接続もしくはヘッセ構造を持つ多様体に対して、その接束の関数論的性質を底多様体のアフィン微分幾何の観点から研究し、その成果を応用に資すること 2. アフィン平面の凸領域の撞球で、双曲平面の領域の撞球と同値なものを完全に決定すること 3. 変形KdV方程式が付随する3次元ユークリッド空間の捩率一定曲線の運動に対して、それを記述する(多重)ハミルトン系を具体的・幾何的に与えること を平成25年度の最重点課題として研究を進めていく計画である。
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