研究概要 |
1.個々の弾性体材料は等方的であっても,それらを組み合わせた複合材料は容易に非等方性を有し,その性質を我々の生活に役立てている例は多い.たとえば向きづけられたファイバーで補強された複合材料は,強い非等方性をもった横等方弾性体となる.本研究では直交異方性弾性体(横等方弾性体を含む,より広い非等方弾性体の典型例)から微少に弾性テンソルが摂動した場合,および微少な残留応力が発生した場合に,弾性体の自由境界面近傍を伝播する表面波(Rayleigh波)の位相速度が,直交異方性弾性体のときの速度からどのように変化するかを考察した.より具体的には,弾性テンソルの直交異方型テンソルからの摂動部分と残留応力テンソルによるRayleigh波の位相速度の一次摂動を,公式として表示した.一方,弾性体の性質が未知のとき,自由境界表面上でのRayleigh波の挙動を調べることで,弾性体の非等方性,不均質性を決定することは,材料力学,地球物理での重要な逆問題である.この具体例として本研究では,前述の一次摂動公式をもちい,横等方弾性体の等方面を伝播するRayleigh波の速度から,摂動として与えた残留応力の主軸方向,およびその残留応力の主応力和と主応力差を決定する逆問題アルゴリズムを提示した.以上の結果をまとめ国内外での研究集会で発表を行い,また同内容は数学・力学分野の専門誌に掲載を受理された. 2.弾性テンソルが自由境界面から深さ方向に不均質である場合に,Rayleigh波の位相速度に対して高周波漸近展開式(分散公式)を求めることを目標とし,本年度は漸近展開式の各項を帰納的に求める手続きを漸近解析により正当化した.この結果を専門誌に投稿する段階へ進むことができた.今後は得られた精密な順問題解析を,個々の代表的な非等方弾性体に適用し,弾性テンソルの不均質同定の逆問題に応用することを計画している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強い非等方性をもった横等方弾性体に対して,Rayleigh波の位相速度に対する一次摂動公式を与え,逆問題への応用を図ることができた.一方,弾性波動方程式の取り扱いは,微分方程式論の立場からも,係数が場所に依存する場合には変数係数微分方程式となり,解析が格段に難しくなる.したがって,弾性テンソルの非等方性による摂動に加え,弾性テンソルの不均質性も考慮するには,周到な準備と十分な解析のための時間を必要としたが,Rayleigh波の分散公式を求める順問題解析の一般論はほぼ完成したといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後Rayleigh波の分散公式を基に,海外共同研究者・連携研究者との討論を重ね,弾性テンソルの不均質を再構成する逆問題への応用も見据えるとともに,Rayleigh波以外の他の種類の弾性表面波について考察すること,またこれまでの不均質性は境界表面から深さ方向に関するものであったが,弾性テンソルの不均質性が介在物によって与えられている場合に弾性表面波の挙動を吟味していくことを,研究の推進方向として計画している.
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