研究課題/領域番号 |
22540111
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
田沼 一実 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60217156)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 非等方弾性体 / 弾性表面波 / 弾性界面波 / 弾性波動方程式 / Rayleigh 波 / Stoneley 波 / 分散 / 逆問題 |
研究概要 |
1.弾性係数が領域の各点ごとに変化する不均質弾性体においては,自由境界面近傍を伝播する表面波(Rayleigh 波)の位相速度は周波数に依存する.これはRayleigh波の分散現象として知られており,これまで多くの観測,数値実験,そして分散現象より弾性体の性質を同定する逆問題解析への応用が研究されてきた.一方,非等方弾性体における分散現象の厳密な数学解析は,未だ完成されていない.そこで半無限非等方弾性体に対する弾性波動方程式において,弾性係数が自由境界面から深さ方向に不均質という仮定の下で,Rayleigh波を記述する時間周期的な漸近解を構成し,位相速度に対する高周波漸近展開式(分散公式)を求めた.とくに後者においては,弾性係数をもちいて分散公式の各項を表現する具体的な手続きを,線形方程式系の求解に帰着することでexplicitに表現することができた.以上の結果をまとめた論稿は,応用解析分野の国際誌に受理された.今後は得られた精密な順問題解析を,個々の代表的な非等方弾性体に適用し,分散現象の観測から弾性係数の不均質を同定する逆問題の数学解析を計画している. 2.異なる2つの半無限非等方弾性体が界面をとおして接続されているとき,界面の近傍では,両法線方向に指数減衰する亜音速の界面波(Stoneley 波)が存在する.この界面波の伝播速度は,半無限弾性体の非等方性によってどのような摂動を有するか考察し,国内のいくつかの研究集会で研究経過を発表した.一方,界面の境界条件によっては他種類の界面波が生じ,その伝播速度が周波数に依存する分散現象も起こりうる.今後は,界面の様々な境界条件の下で,摂動公式,分散公式を求める統一的解析手法を確立することを計画している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
弾性波動方程式の取り扱いは,係数が空間変数に依存する場合,すなわち弾性体が不均質性を有する場合には変数係数微分方程式となり,explicitな解の表示を得ることは難しく,微分方程式論の立場からも解析が格段に難しくなる.したがって,弾性係数の非等方性に加え,弾性係数の不均質性も考慮するには,周到な準備と十分な解析のための時間を必要としたが,漸近解析をもちいることで,弾性波動方程式の近似解の構成,およびそれをもちいての半空間におけるRayleigh 波の分散公式を求める順問題解析の一端を完成させることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後Rayleigh 波速度の分散公式を基に,海外共同研究者・連携研究者との討論を重ね,弾性係数の不均質を再構成する逆問題への応用を見据えるとともに,Rayleigh 波以外の他の種類の弾性波(表面波,界面波)について考察することを今後の計画としている,一方,これまでの不均質性は境界表面から深さ方向に関するものであったが,弾性係数の不均質性が弾性体内の介在物によって与えられている場合に,弾性表面波の挙動を吟味していくことは未だ手探りの状態である.この困難さは,弾性係数が任意形状に不連続関数であることに起因すると予測されるので,たとえば弾性係数が層状に(境界表面から法線方向に)不連続という設定にて弾性波の挙動を吟味する方策も考えられる.表面波挙動に影響を及ぼす領域は,境界表面から深さ方向に表面波の波長オーダーのたいへん薄い部分であるから,弾性係数が他と異なる非常に薄い層(layer)が弾性体表面に存在するとの設定で,layerの表面波挙動への影響を調べることも,今後の方策の一つと認識している.
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