研究概要 |
[1]感染症数理モデルや構造化個体群モデルにおいては、基本再生産数とともにタイプ別再生産数(T)の概念が基本的である。タイプ別再生産数は、多状態の個体群再生産システムにおいて、特定のタイプ(ターゲット)の個体がその再生産期間のうちに生産する同種の個体数の平均数として定義されるが、ここで重要なことは直接に再生産する個体のみならず、非ターゲットへの再生産を経て間接的に再生産する個体数もカウントすることである。そのため、非ターゲット個体群だけによる再生産数が劣臨界であるという条件のもとで符号条件Sign(RO-1)=Sign(T-1)が成り立ち、タイプ別再生産数は個体群成長の閾値条件を与える。すなわち、ターゲット個体群のコントロールによって全体の個体群成長を制御する場合の測度になる。これまで、タイプ別再生産数は、定常環境でかつ離散的な状態の場合のみ定式化されていたが、本研究では、一般の変動環境下における新たな基本再生産数の定義に依拠して、変動環境下で連続的な状態変数をもつ構造化個体群に対するタイプ別再生産数の定義と基本的特徴付けを与え、その感染症流行制御への応用例を示した。 [2]人口学、疫学における基本再生産数の概念は、ホスト個体群の動態率や感染率が時間に依存しない自律系の方程式にもとついて定式化されてきた。一方、感染症の伝達率や媒介生物の個体群動態などには明確な季節性、周期性が存在する場合が少なくない。そうした変動環境における感染症流行ないし個体群成長の閾値条件を与えるような、基本再生産数概念の拡張が、これまでHeesterbeek and Roberts,Bacaer,Thieme,Wang and Zhao等の著者によって提案されてきた。本研究では、弱エルゴード的な正の周期的発展システムが一様に原始的(uniformly primitive)であれば、フロケタイプの指数関数解をもつことを示し、それにもとついて、線形常微分方程式ないしはMcKendrick型の偏微分方程式で表される周期的パラメータをもつ個体群(感染症)モデルに関して、Baca\"er,Thieme,Wang and Zhaoによる基本再生産数および次世代作用素の定義を再構成して閾値原理を示した。
|