研究概要 |
平成23年度に実施した研究の成果は以下の通りである。 1.ワシントン大学のZ.Q.Chen教授との共著本Symmetric Markov Processes, Time Changes, and Boundary Theoryが平成24年1月にPrinceton University Pressから出版された。その最終章に「3次元以上のユークリッド空間で2個の無限錘からなる閉領域上の反射壁ブラウン運動の時間変更過程の無限遠到達後の4種類の対称拡散拡張を決定する」という本研究の平成22年以降の成果が整備・拡張されて掲載された。 2.平面の多重連結領域(有限個の穴の空いた領域)上の複素解析への縢りブラウン運動(Brownian Motion with Darning (BMD),各穴を1点とみなして反射させて得られるブラウン運動)の応用を開始した。即ち任意のBMD-調和関数の穴の廻りの周期が零であることを上述の共著本の一般論を用いて証明し、それによって標準截線領域上のJordan弧の導く等角写像族の満たす小松-Loewner微分方程式の右辺に現れる核がBMDの複素Poisson核であることを証明した。この微分方程式は従来適当な左連続なパラメター関数についての左微分の意味でしか確定していなかったが、更に等角写像族をBMDを用いて確率論的に表現することに成功し、それによってパラメター関数の連続性を示した。 3.伊藤-McKeanの著書で求められていた一般境界条件を満たす1次元拡散過程は自明なものを除けば全て標準測度とその境界への拡張に関して対称であり、従ってディリクレ形式を用いて直接的に構成されることを証明した。先ず極小拡散過程が標準測度に関して対称であることとそのディリクレ形式の同定の簡潔な証明を与え、それによって極小拡散過程とその対称拡散拡張を再生核を通して伊藤-McKeanの境界条件と関係付けることが方法の特徴である。この研究は1に述べた共著本の一般論による伊藤-McKean理論を再構成を図るものである。
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