生物の形態や化学反応系は、エネルギーや物質の消費と流入のバランスによって動的に維持されているシステムと考えられることから一般に「散逸系」とよばれている。本年度が本研究の最終年度であることと、散逸系におけるパターンダイナミクスに現れるハミルトン構造そのものの研究は一段落したことから、散逸系の研究において基本となる事項を本の形でまとめることにした。これは、共立出版のシリーズ「現象を解明する数学」(三村昌泰、竹内康博、森田善久編集)の1冊として「パターン形成-平衡点の分岐理論の応用として-」という題で出版される予定である。また、次年度以降の新しい研究テーマを探すために生態学や生物の形態形成におけるモデル方程式を研究することにも重点をおいた。本年度は、捕食者の休眠を考慮した被食者-捕食者型の常微分方程式の共存平衡点の安定性を調べた。この結果は研究論文の形で公表する予定である。さらに、捕食者の休眠を考慮した被食者-捕食者型の常微分方程式に拡散効果を加えて拡張した反応拡散方程式モデルにおいて、空間一様な平衡解が不安定化し Turing pattern とよばれる空間非一様な平衡解が出現する条件を調べた。その結果、捕食者の休眠それ自体は Turing pattern を生み出す効果をもたないが、空間一様な平衡解が不安定化するパラメータ領域を拡大する効果をもつことがわかった。さらに、ある条件の下では、空間一様な平衡解から periodic traveling wave が分岐する可能性があることもわかった。これらの結果を2013年度日本数学会秋期総合分科会(愛媛大学、2013年9月24日~27日)応用数学会場で発表した。
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