本年度は主に調和変換の研究を行った。 1.有限状態空間をもつ出生死滅過程において、一方の境界に他方の塊界より先に到達するという条件を課すことにより誘導される確率過程(条件付き確率過程)がマルコフ性を保存するかどうかについて、確率論的手法を用いて考察した。先に到達する境界が「吸収壁/反射壁」であるかにより、「マルコフ性を保存する/マルコフ性が壊れる」という興味ある成果が得られた。応用の分野では反射壁の場合が取り扱われることが多い。そのような場合の条件付き確率過程がマルコフ性を有しないことを示すことにより、様々な確率計算を行う際の注意を喚起した。さらに、反射壁の場合の条件付き確率過程の推移確率に対して、境界への到達確率等を用いて具体的な表示を与えた。 2.一次元広義拡散過程の調和変換により、変換前の確率過程のどのような性質が変換後の確率過程にどのように反映されるのかは、大変興味ある問題である(上記1で取り扱った問題もその一つである)。本研究では、大域的な性質に焦点をあてて、本質的に異なる確率過程に変換されるための条件について考察した。変換前も変換後も再帰性を有するための必要十分条件は、変換に関わる調和関数が正の定数関数であること等の条件を得た。 次年度の研究の準備として、尺度関数、速度測度関数が退化していくような拡散過程の列の極限についても考察した。尺度関数列、速度測度関数列の極限が、共通の不連続点を持つ特別な例に対して、双一般化拡散過程の視点から、極限過程について考察した。これまでと異なる収束の状況が観察され、今後の研究につながる成果が得られた。
|