1.体内レベルの感染症動態の研究。 (1)未感染細胞、感染細胞、ウイルス、細胞性免疫の4者の相互作用において、感染項が飽和型になっているモデルに対して、共同研究を行った。時間遅れに関しては、感染細胞が感染力を持つようになるのに必要な時間と、免疫が働くようになるまでに必要な時間の両者を対象にした。取り入れる時間遅れに対していくつかのパターンを設定し、それらの方程式に対して平衡点の安定性に関する結果を得た。これは、現在盛んに行われている、ウイルスダイナミクスの大域挙動の研究のひとつとして意義ある結果であると思われる。 (2)体内のウイルスダイナミクスを記述する微分方程式系に遅れを取り入れた際に、遅れの無い方程式に対するリアプノフを利用して、遅れのある方程式に対するリアプノフ関数を構成する方法について共同研究を行った。まだ、一般的な結果とは言えないが、かなり多くのモデルに対してこの方法が適用出来ることが分かった。リアプノフ関数の構成に関しては、Korobeinikov(2004)、McCluskey(2010)の研究の影響で、研究に拍車がかかってきたが、それらは個別の方程式に関して計算を行うものであり、それがうまくいく「からくり」は、よく分かっていない。本研究はその「からくり」にせまろうとするものであり、大いに意義がある。 2.社会レベルの感染症動態の研究。 ウイルスの突然変異による毒性の進化に関するモデルの解析を行った。重複感染がある場合に毒性の強い方向に進化が進みうる事が知られているが、そこでは宿主が移入により増えるモデルが用いられている。本研究では、宿主のダイナミクスにロジスティック項を採用したモデルとの比較を行い、進化の方向に関しては両モデルとも同じ数学的な構造を持つという結果を得た。本研究は、病原体ダイナミクスの進化への応用を数理の立場から見るという意義がある。
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