レヴィ過程でドライブされる市場におけるノンインサイダーの最適期待対数効用は基礎の確率測度の同値マルチンゲール測度に関する相対エントロピーの最小値に一致することがわかっており、それらを実現するポートフォリオも一致することが分かっている。この事実をよりどころとして不完備市場における金融派生商品の価格をこのようなポートフォリオでの価格とするべきだとの考え方がある。 同じようなことがノンインサイダーに対しても成り立つことを示すことは重要だと考えられる。本研究ではインサイダーの最適期待対数効用がある同値マルチンゲール測度のクラスの中の確率測度に対する基礎の確率測度の相対エントロピーの最小値に一致することを示すことができた。さらに最適期待対数効用を実現するポートフォリオは相対エントロピーを最小にする確率測度を構成するポートフォリオと一致することも示すことができた。ノンインサイダーの場合には上に述べたクラスは同値マルチンゲールの全体に一致することが知られているがインサイダーの場合には一致するかどうか分かっていない。今後の課題である。 インサイダーの最適期待効用がノンインサイダーのそれより大きくなるであろうことはその定義より明らかであるが、両者を式で比較しても真に大きいかどうかを知ることは難しい。ブラウン運動の部分がなく、ジャンプの構造が非常に単純な場合に計算機実験をしてみると、確かにインサイダーの最適期待効用がノンインサイダーのそれよりも大きいが、有限であることが分かった。ブラウン運動でドライブされる市場において満期の株価を知っているインサイダーの満期における期待対数効用は無限大になることが知られているがそれとは対照的な結果である。
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