本研究の目的は、数理ファイナンス理論に関連して多次元レヴィ過程モデルを使って非完備市場または無裁定条件の成立していない市場における信用リスクやポートフォリオの価値などの評価法を確立することである。すなわち、無裁定条件の成立を前提としない場合には、数理ファイナンスの理論で標準的になっている「裁定理論」を適用することはできないので新しい価値評価法を導入することが必要であり、それに応えようとするものである。とくに、リスクと価値の両方を考慮に入れた評価法を構築することが肝要である。 昨年までの研究の成果として、裁定理論によらない価値尺度の候補として「リスク鋭感的価値尺度(Risk-sensitive value measure)」が有力であり多くの優れた性質を持っていることが示されている。さらに、この「リスク鋭感的価値尺度」をポートフォリオの評価や保険の加入者の立場からの評価に適用することを試み、ある程度の成果が得られている。 今年度は、上のような「リスク鋭感的価値尺度」をポートフォリオの評価や保険の評価に適用することの有効性を、数値例を交えるなどして学会発表を行った。また、資産評価の多くの問題で表れる「規模のリスク」に注目し、「リスク鋭感的価値尺度」が「規模のリスク」の評価に対しても有効であることを論証した。この結果は、萌芽的な論文として「研究ノート」という形で公表した。
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