研究概要 |
私の研究分野は確率論を用いた数理ファイナンスであり,特にリスク管理の視点を取り入れた条件付請求権の価格付けや最適ヘッジ戦略問題に端を発する確率過程論的問題に取り組んでいる.より具体的には,ショートフォールリスク測度という凸リスク測度を用いた問題に取り組んでいる.但し,ショートフォールリスク測度とは,条件付請求権の売り手がうまく戦略を組んでショートフォールリスクをある閾値以下にできる最低価格を表す凸リスク測度のことである. 平成22年度の研究実施計画において2つの研究課題を掲げた.一つは,ショートフォールリスク測度の枠組みを静的リスク測度から動的リスク測度にまで拡張することであり,もう一つは,条件付請求権がアメリカ型オプションのように確率変数ではなく確率過程として与えられるような場合への拡張であった.平成22年度では後者の問題に取り組んだ.それらの成果は既に,東京やドイツで開かれた国際シンポジウムなどで発表しており,現在,論文にまとめている. アメリカ型オプションに対するショートフォールリスク測度を論じるため,確率過程の空間上の凸リスク測度の一般論を整理する必要がある.特に,ショートフォールリスク測度はOrlicz空間上で議論することが自然であるので,その枠組みにおける確率過程の空間を整理することから始めた.凸リスク測度のロバスト表現定理を得るためには定義域となる空間の双対空間を特定する必要がある.そこで双対空間が具体的に記述できるような空間として,確率過程の最大値がOrlicz空間に入るような空間を導入し,凸リスク測度の表現定理の導出を行った.一方,アメリカ型オプションの行使時刻は停止時刻によって与えられるので,停止時刻に関して一様可積分性を持つ確率過程の空間を定義し,通常の確率変数の空間上に定義されるショートフォールリスク測度を用いた表現の導出も行った.
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