研究課題/領域番号 |
22540149
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
新井 拓児 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (20349830)
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キーワード | 数理ファイナンス / 価格付け理論 / 非完備市場 / リスク測度 / Orlicz空間 |
研究概要 |
私の研究分野は確率論を用いた数理ファイナンスであり、リスク管理の視点を取り入れた条件付請求権の価格付けや最適ヘッジ戦略問題に端を発する確率過程論的問題に取り組んでいる。平成23年度は以下の3つの研究課題に取り組んだ。 一つ目は、請求権に対する価格の上下限を表現できる凸リスク測度をgood deal valuationと名付け、一般の凸リスク測度がgood deal valuationになるための条件について研究した。この結果は、ショートフォールリスク測度とgood deal boundの関係についての研究を一般化したものである。これはもともと計画していたものではないが、大阪大学の深澤正彰氏と共同研究を行う機会を得たために取り組んだもので、その成果を論文「Convex risk measures for good deal bounds」にまとめた。 もう一つは、確率過程の空間上の凸リスク測度の一般論に関する研究である。これは以前から取り組んでいたアメリカ型条件付き請求権に対するショートフォールリスク測度を論じるためである。ショートフォールリスク測度はOrlicz空間上で議論することが自然であるので、その枠組みにおける確率過程の空間を整理することから始めた。凸リスク測度のロバスト表現定理を得るためには定義域となる空間の双対空間を特定する必要がある。そこで双対空間が具体的に記述できるような空間として、確率過程の最大値がOrlicz空間に入るような空間を導入し、凸リスク測度の表現定理を導出した。この研究の成果を論文「Convex risk measures for cadlag processes on Orlicz spaces」にまとめた。 3つ目として、Malliavin解析を援用してlocally risk minimizingの具体的な表示を得る研究も始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ型条件付き請求権に対するショートフォールリスク測度の研究は、Orlicz空間によって定義された確率過程の空間上の凸リスク測度に関する研究によって、ある程度終結したといえるであろう。一方、当初予定していた動的凸リスク測度の研究は行わなかった。これは、大阪大学の深澤氏と共同研究を行う機会を得たため、good deal valuationの研究を優先して行ったからである。この共同研究はその成果を論文としてまとめるに至った。また、重要なヘッジ戦略の一つであるlocally risk minimizingのMalliavin解析による表現の研究に取り掛かり、ある程度の成果を挙げることもできた。以上より、総じておおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の取り組むべき課題は2点ある。 一つは、深澤氏との共同研究のさらなる発展である。これまでは、市場が、つまりヘッジ戦略の全体が凸錘であるという条件の下で研究を行っていた。今後は、これまでの結果を制約が凸である場合等へ拡張することを考えたい。流動性リスクや取引費用が発生するモデルでは、これまでの凸錘制約は強すぎるため、凸制約にまで緩めたモデルを取り扱う必要がある。 もう一つは、Malliavin解析を用いたヘッジ戦略の具体的表示に関する研究である。Locally risk minimizingの具体的表示に関する研究は、現在、stochastic volatility modelなどの具体例に対する明示的な表現の導出という段階に至っている。今後は、mean-variance hedgingなどの他のヘッジ戦略についても研究を行う予定である。
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