非完備市場モデルにおける条件付き請求権の価格付け問題を無裁定条件下で考える。このとき、価格を一意に決めることはできず、単に価格の候補として無裁定価格区間が得られる。無裁定価格区間の上限付近で請求権を売却できれば、裁定機会を得ることはできないが、適切なヘッジ戦略を取ることによりリスクを十分小さく抑えることができる。下限付近で請求権を購入した場合も同様である。このような低リスク価格を無裁定価格区間から除外し、請求権の価格の候補を狭めることを考える。この新たな狭められた価格区間をgood deal boundと呼ぶ。つまり、good deal boundは投資家のリスク選好と許容度によって決まる。 平成23年度に行った大阪大学の深澤正彰氏との共同研究では、市場が凸錘であるという条件を置き、1 superhedging costの諸性質、2 凸リスク測度がgood deal boundの上下限を記述することとrisk indifference priceになることの同値性、3 価格付け理論の基本定理の拡張、の3点について研究を行った。今回は、市場の制約が凸である場合への拡張を考えた。何故ならば、流動性リスクを考慮したモデルやポートフォリオ制約があるモデルでは市場の凸錘性は成立しないからである。上記の3点に関して、凸錘の場合とそれを除去した場合の違いを詳細に調べ、論文「Good deal bounds with convex constraints」にまとめた。
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