昨年度中に得た成果に関連する研究を更に推進した.ここで,昨年度に得た成果とは,量子誤り訂正符号のエンコーダを含む一般の量子情報処理の効率を定量的に論ずる上で有用な基礎的かつ建設的な研究である.この方向の研究を平成 24 年度に始めた動機は,ある誤信が量子計算の分野に蔓延している(実際,その誤信は複数の標準的な量子計算の教科書に見られる)現状が看過ならなかったことである.昨年度までに得られた基礎的な成果は,与えられた SU(2) の元に付随するある数,具体的には,その元を,ある制約の下,構成するのに必要な構成要素の数を決定するものだが,本成果は直ちに誤信を反証する.それまでの誤信の蔓延は,それを盲信していた者達には,本成果で提起した課題の存在すら認識出来なかったことを意味している.しかも本成果は量子情報処理の基礎に関するものであるから,このような定説を覆す成果を得たこの時期に,成果を強化すべく更に研究を推進することが急務と考えた.そこで,昨年度までに,上記成果の証明中,与えられた SU(2) の任意の元を「ある制約の下」構成する方法まで与えていたのであるが,これを具体的なアルゴリズムとして記述し,また実機でも走らせた.本研究(昨年度実施分からアルゴリズム構成まで)を論文に纏め Royal Society Open Science 誌に投稿し採録された.また,剰余符号についても,これまでの成果を発展させる研究を続けた.具体的には,これまでに自ら得ていた盗聴通信路において漸近的最良性を達成する符号の安全性評価を改良する結果を得た.すなわち,従来の報告者自身による安全性評価では,情報理論で良く知られている Fano の不等式を用いていたが,この一般的な不等式を強化することに成功した.
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