研究概要 |
至誠賛化流の門人が作成した主として平面幾何学の問題を集成した『淇澳集』の解の導出構造を推定し,その構造を研究した.その結果,解に用いられている幾何学の知識は必ずしも多くないが,問題によってはその導出の系統,ステップの数が多いものがあることがわかった.それはとりもなおさず当該の問題が難問であることを示している,この観点から見ると,各年度,冒頭の問題はそれ以降の問題に比べて難問であり,自流の威厳を示すための編集上の工夫がなされていることが明らかになった.この方向での研究は各流派に入門した人々が楽しみ研究した数学の実像をある客観的に解明するものとして新たな意義を有するものである. 関孝和,建部賢弘,建部賢明による『大成算経』は当時の数学を集大成しようとする試みであり,その研究の意義は言をまたない.しかし,その劈頭の二巻に述べられている珠算法をめぐる記述は,その内容が初等的,技術的であるとの理由から,これまで看過されてきた.しかしこの部分の精読によって,編者が珠算法の網羅およびその徹底的な分類を試みたことが明らかになった.このような思想は「三要」において特に明確であるが,その思想の一貫性はすでに冒頭から体現されているのである.この点で本年度の研究は『大成算経』を全体として俯瞰,把握する試みとしてその重要性を有する.なお,これに関連して,本年度は珠算法自身に関しても若干の考察をした. クラヴィウスのEpitome Arithmeticae Practicaeに基づき翻訳,執筆された『同文算指』に関して詳細な対照を作成した.このような研究は精密な研究の基盤として重要であるが,これまで十分になされてこなかった.このような研究は中国の研究者においてもその萌芽が見られ,今後ますますその重要性が増すと思われる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
至誠賛化流に関しては京都大学数理解析研究所における研究集会で発表,講究録への投稿をすることができた.『大成算経』に関しては数学史名古屋セミナーにおいて継続的に研究を進め,数理研の集会で発表することができた.『同文算指』に関しては数学史京都セミナーにおいて研究を進め,九州数学史シンポジウムや中国清華大学のシンポジウムで講演することができた.
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