昨年度は佐藤博士によりはじめられたグラスマン多様体による可積分系の理論の解析的な立場からの基礎付けを第1の目標にして研究したが、今年度はその基礎づけの誤りを訂正し、いくつかの改善を行った。 まず佐藤により導入され基本的な役割を果たしたタウ関数を具体的な関数に対して実行した。一番単純な唯一の極をもつ分数関数に対しては三輪-神保-伊達により既に計算されている。これを多数の極を持つ分数関数に対して拡張した。その結果、実軸では実数の値をとる関数に対してはタウ関数が消えないことが分かり、これをKdV力学系の構成に応用した。当初はこの力学系を構成するのに、Marchenkoらによるポテンシャルのアプリオリ評価を利用していたが、この新しい方法により、より本質的なKdV力学系構成の方法が分かったことになる。これらの結果はバルセロナの数学研究所(CRM)のプログラム「複素解析とスペクトル理論」の研究集会で連続講演として発表した。 さらにランダムなポテンシャルを持つシュレーディンガー作用素の固有値分布の極限分布について新しい結果を得た。この分布はある確率微分方程式の解を用いて記述される分布であり、ランダム行列の場合のベータアンサンブルと呼ばれるものに一致することが分かった。この研究は学習院大学の中野氏との共同研究である。またKrein stringについて境界が流入型の場合に非常に一般的な形でKrein対応の連続性を示すことができた。この結果はこの研究課題の負の部分のスペクトル構造の解明に役立つものと考えている。
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