吸収壁(ディリクレ境界条件)を持つ拡散過程に関して、拡散半群作用素の滑らかさの精密評価を得た。まず、滑らかな関数の作る空間に、拡散半群から与えられるノルム、微分作用素から与えられるノルムなど、様々なパラメータ付きのノルムを定義して、そのノルム間の性質、特に、その実補間ノルムについての関係をマリアバン解析に基づいて調べることで、境界と平行な方向についての滑らかさに関して精密評価を得た。さらにその結果を基に、偏微分方程式の摂動の方法を用いて、境界と垂直な方向を含む一般の方向について精密評価を得た。この結果は、特殊な場合は部分マリアバン解析の方法で得ることができるが、一般的なUFG条件の下では全く知られていない新しい結果であり、解析学の観点からも意義深いものである。 吸収壁を持つ拡散過程の拡散作用素に対して良い近似を与えるマルコフ作用素を見つけることに関しては、境界条件がない場合の二宮-Victoirの近似法のアイデアに、killingの効果を入れることで、2次のオーダーまでの近似は得られた。しかし、そのままの方法で3次、4次の近似に拡張する事はできないことがわかり、平成22年度中にアルゴリズムの確定ができず、数値実験にも着手できなかった。平成23年度ではWhittaker関数という特殊関数による補正を用いれば3次近似まで達成することがわかった。それにより3次近似の具体的な公式を得ることが出来た。数値実験を謝金を用いて行う予定であったが、研究補助者として予定していた院生に事情が生じてたため、複数の、この方面の専門家である研究者に依頼して数値実験を行ってもらった。数値実験の結果は想像以上によいが、3次補正をしなくても十分良い結果が出るのではないかという意見を一人の研究者から頂いた。3次補正が真に必要かどうかを理論的に調べるには残余項を調べる必要があるが、難しい問題で次年度の課題となった。また、4次近似やさらに一般の近似方法の検討も次年度の課題として残された。
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