吸収壁(ディリクレ境界条件)を持つ拡散過程に関して、期待値の近似値を精度良く高速に計算する方法は状態空間の次元が高い時はあまり良いものがない。境界条件がない場合には、研究代表者は新たな数値計算法を既に提唱しているが、その基礎となったのは、マリアバン解析に基づく拡散半群作用素の滑らかさの精密評価であった。今回の研究の目的は、同様な評価を、境界が非特異な吸収壁の場合に得ることにあった。 平成24年度は計画では二宮―Victoir の近似法のアイデアに、 killing の効果を入れさらにWhittaker 関数という特殊関数による補正を用いた方法を、多次元拡散過程に対する数値実験を行うと共に、理論的研究を行う予定であった。理論研究は進んだが、数値実験があまりうまく実行できず十分な成果が上がったとは言い難い。 一方、アメリカンオプションの価格付けを行う計算法として、確率的メッシュ法があるが、こちらの理論研究が予想外に進展した。マリアバン解析による基本解の精密評価が有効に使うことが出来、この方法を他のファイナンスの問題である CVA や担保付きデリバティブの価格付けの計算に使う見通しも出てきた。また、最小二乗法を用いるアメリカンオプションの数値計算法についても理論的な根拠を得つつある。24年度はむしろそちらの研究を重点的に行い成果を上げることができた。
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