本課題の研究目的は、多変数の超幾何関数に対し関数等式、特にパラメータつき変換公式を探索することである。具体的には、多変数超幾何関数の局所的性質(微分方程式) を利用して、関数等式の組織的探索を行った。関数等式とは2つの見掛けが異なる多変数解析関数の同一性のことであるから、(1)ある点での関数値が一致(2)偏微分方程式系が一致、が言えれば同一の関数であることが分かるが、実際には偏微分方程式系が一致することを証明するのは大変な計算になる。本研究では、差分的手法により関数等式とある種の代数曲面(一変数の場合)との間に関係があることが分かった。本研究では自作の高性能グレブナーエンジン yang を使用し計算機代数的手法を援用しながら、この計算を遂行した。グレブナーエンジン yang の機能を拡張し、また大規模計算に耐えうるように性能を向上させる作業を行った。さらに並列計算への応用を考えて、ベースとなる数式処理システムRisa/Asirの並列計算機能を強化するための作業を行った。 超幾何関数はホロノミック関数と呼ばれる関数族の一部をなすが、SO(3)上のウィシャート確率分布に付随する積分で表示されるホロノミック関数(行列変数超幾何関数)に対して、その一階偏微分方程式系を求めた。特に特異値分解を用いて対角行列のなす空間上への偏微分方程式系の制限を求めたが、これは行列変数超幾何関数の満たす新しい偏微分方程式であった。さらにその偏微分方程式系を用いて、極小点を導出する記号的数値解析アルゴリズムを開発した。この極小点導出は統計学におけるある種の最尤推定問題の解決に相当し、本研究の統計学に対する応用でもある。この結果について日本数学会で発表し、論文を出版した。また、本研究の関数論的な応用として行列のスペクトル分解・ジョルダン標準形に対する新しい計算法を提案し、日本数学会などで発表した。
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