研究概要 |
研究代表者大鍛治隆司は、まず解の強一意接続性に関して熱方程式に代表される2階放物型方程式を取り扱った。ここで言う強一意接続性とは、解が時刻t、空間内の点xにおいて無限次の零点を持てばその解は常に時刻tにおいて恒等的に零となることである。これに関する従来の研究においては、方程式に空間方向に関する1階微分項が低階項として存在するときの取り扱いは極めて不十分であった。これは放物型方程式と対応する2階楕円型方程式との構造上の本質的な相違に起因する。特にその係数の特異点が臨界指数を持つときには対応する楕円型方程式に対する結果と比較して極めて不十分な結果しか得られていなかった。それは通常の方法では基礎となるCarleman不等式を導くことが出来なかったことに由来する。 そこでこの困難を克服するためにまず粗いCarleman不等式を確立し、これを用いて解の無限次の零点は常に指数関数的に退化する零点であることを示した。次にこの退化の性質をうまく用いてより強い形でのCarleman不等式を導くことに成功した。これにより、従来の結果を大幅に改良し、対応する単独楕円型方程式に対する場合とほぼ同等の結論を示すことが出来た。 また、1階双曲型方程式系に対する解が時刻tにおいて空間の領域R<|x|で恒等的に零となっているときに時刻t+Tにおいてその解はR+T<|x|において恒等的に零であるという「解の有限伝播性」の一つの応用として、Hubert Kalf,山田修宣両氏との共同研究において、数理物理学における最も重要な方程式の一つであるDirac方程式をとりあげ、特別な磁場モーメントを持つ場合にDirac定常作用素に対する本質的自己共役性についての研究を行った。この際、時間発展方程式に対する解の零点の伝播についての性質が重要な役割を果たしていることがわかる。
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