研究課題
研究代表者大鍛治隆司は、多体粒子に関するDirac作用素に対するスペクトル問題についての考察をHubert Kalf氏、山田修宣氏と共同で行い、前年度得られた結果を格段に改良することが出来た。この問題の発端は、Dirac-Coulomb作用素と呼ばれる量子化学の分野に起源を持つ重要かつ基本的作用素について、その数学的基礎付けが全くなされていないことが、2012年にDezezinski氏によって数理物理学誌(IAMP News Bulletin)において紹介されたことによる。我々は、そのうち特にヘリウムに代表される電子が二つある元素に関連した場合のクーロン型ポテンシャルを持つDirac-Coulomb作用素に対象を絞り、そのスペクトルの基本的性質(本質的自己共役性、本質的スペクトル、固有値の非存在)を明らかにした。そのため、まず作用素のテンソル空間上の行列構造を明らかにすることから始め、それに基づいて、結合定数に対する自然な条件下での本質的自己共役性、実数直線全体が本質スペクトルとなっていること、さらに固有値が実数直線上全く存在しないことの三つの性質を証明した。これらの結論は2粒子の場合に限れば、Derezinski氏の問題に対する十分な解答を与えたことになっている。また、濱田雄策氏(京都工芸繊維大学)氏並びに竹井義次氏(京都大学数理解析研究所)との共同研究において、多重度が変化する特性面を持つ方程式にたいする解の大域的特異性の詳細な構造を明らかにした。この研究は、2007年に濱田雄策氏(京都工芸繊維大学)が発表した整函数を係数に持つ偏微分方程式のCauchy問題に対する解の解析接続についての研究をさらに発展させたものであり、その証明には先に得られた三者による共同研究における新しいPathの変形理論が用いられている。
2: おおむね順調に進展している
多粒子系において重要なディラック・クーロン作用素を取り上げ、自然な設定条件の元で、初めてそのスペクトル問題に関する基本的性質を数学的に解明した。また、複素位相法を用いて通常のディラック作用素のスペクトル閾値における固有値の非存在に関する研究を開始した。
種々の偏微分方程式の解に対する一意接続問題並びに関連するスペクトル問題や逆問題について複素位相法の観点から再検討し、多体粒子系を含む従来の方法では捉えきれない作用素の諸問題に対して有効なカルレマン評価法を開発し,応用する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
J. Fixed Point Theory Appl.
巻: Published online 18 January ページ: 1-36
10.1007/s11784-014-0152-9
巻: Published online 19 January ページ: 1-15
10.1007/s11784-014-0153-8